半田市立半田中学校

子どもたちの未来を変える教育とは何か?

子どもたちの未来を変える教育とは何か?

PROFILE

プロフィール

河合 美和

半田市立半田中学校

教諭

河合 美和

愛知県半田市立半田中学校教諭。現在は半田中学校で「つながり」を大切にした教育活動に取り組み、地域の企業や行政、団体と連携した探究学習を推進している。特に、生徒の相談をきっかけに立ち上げた「レインボープロジェクト」は、多様な性や個性を認め合う人権教育として注目されている。

アイアムデザイン株式会社

代表取締役

後藤 洋平

1983年、半田市生まれ。トライデントデザイン専門学校卒。アルペン社にて企画業務を経て2011年アイアムデザイン設立。河合美和先生とは半田中学校での「企業研修」にて出会い現在に至る。河合美和先生とは「ちいかわ」を通じて意見交換も行う。

ABOUT

業界・業種教育
提供サービス・ポスター
・チラシなど

企業研修から始まったご縁から、真の教育を創造する熱き教諭

後藤:河合美和先生との出会いは今から3年ほど前になるかと思います。
半田中学校での「企業研修」で弊社にお声がけをしてくれた事がきっかけとなり、3年間、半田中学校の生徒と交流することができました。そして学校内だけではなく、半田市100人カイギへの参加も実現しましたし、河合先生の母校でのセミナーに参加したりと、非常に濃い交流をさせていただいております。
特に私は出会ってから3年後の「3年7組」の生徒等の思いでは今でも昨日のことのように思い出してしまいます。本当に貴重なご縁を頂きありがとうございました。

今回は河合美和先生が活動している「レインボープロジェクト」を中心にお話しをさせて頂きたいと思います。
どうぞよろしくお願い致します。

河合先生はなぜ教師になったのか?

後藤:改めて、先生が教師を目指したきっかけを教えてください。

河合:大学4年での教育実習が大きなきっかけでした。一般企業への就職活動をしていたのですが、実習に行ったときに、雷に打たれました。私にとってビビビッどころかバリバリバリ、みたいなとても大きな衝撃で、そこから就職活動ができなくなるくらいのインパクトでした。「私の仕事は教職!」と思い込み、「ナゾの使命感」をもち続けたまま、現在に至っています。

後藤:教師になった当初、どんな先生になりたいと思っていましたか?

河合:「生徒の可能性を拓く」ことができる教師になりたいと思いました。教師って、子どもたちの一番近くにいる大人の一人として、生徒の人生をよくも悪くも左右できてしまう存在ですから。私の中ではブレない軸として、今も思い続けていることです。

後藤:これまでの教員人生の中で転機になった出来事はありますか?

河合:名古屋市内の私立高校で16年勤めてから業種内転職をして、義務教育、中学校の現場に来ました。
とても勇気のいることでしたが、地域で仕事をするようになったことで、生徒たちの暮らしや地域社会とのつながりを以前より強く意識するようになりました。

レインボープロジェクト誕生秘話

後藤:レインボープロジェクトについて概要を教えてください。

河合:多様な性への理解を深め、認め合うための取組です。
学活や道徳、当事者の方と出会う人権教育講演会などを設定して、全校で教育活動として実践しています。そして、多様な性への理解を深めることを軸として、あらゆる多様性を認め合える心を育てることを目指しています。

後藤:レインボープロジェクトはどのようなきっかけで始まったのでしょうか?

河合:12月の人権週間に入選した人権作文を読む機会があるのですが、性自認に悩む子が書いた人権作文を読んだ生徒が、日記に数ページに渡って、これまでの苦悩やこれからの生き方について思いを綴ってきてくれたことがきっかけでした。

私は高校教師時代女子校勤務で、LGBTQ当事者の生徒と多く出会ってきました。なので、日頃から「もし身体と心の性が違っても、同性の人のことが好きでも、何もおかしなことではないよ。だから、ありのままのあなたでいることをどうか大切にしてね」と出会う生徒達に伝えてきました。
日常的にそうした発信をしていたので、先生はきっと分かってくれると思ったと書いてありました。
大切な究極の個人情報を、勇気を出して伝えてくれたことに涙が出ました。まずは、伝えてくれてありがとうと返事を書き始めたことをよく覚えています。

後藤:最初にその相談を受けた時、どんなことを感じましたか?

河合:性自認に悩む子にとって、学校は生きづらさを感じる場所の一つです。男女の区別を無くしきることは難しいからです。
本当の自分を偽って、包み隠して集団の中に居なければならないのはとても苦しいことです。
生きづらさを軽減するにはどうしたらいいのか・・・。
当事者の生徒に寄り添うのはもちろんですが、その場所にいる全ての人が「お互いのありのまま」を認め合える心があれば、生きづらさを少しでも軽減できるのでは・・・だから何かアクションを起こさなければと感じました。

後藤:学校で新しい取り組みを始めることへの不安はありませんでしたか?

河合:レインボープロジェクトが発足して6年目になるのですが、当時の学校長に相談したところ、よし、ぜひやれ!と即答してくださったので、すぐに準備に取りかかりました。メラメラ使命感に燃えていたので不安はありませんでしたが、立案当時は教育活動として性の多様性について実践している学校がなく、参考になる事例がありませんでした。
夜な夜なインターネットで他県の取組を調べたり、講演者探しをしたり、道徳の授業作りのための教材探しをしたりしていて、本当に手探りで少しずつ形にしていきました。立ち上げ時に在籍していた養護教諭が賛同し、協力してくれたおかげで始動することができました。

後藤:周囲の先生方の反応はいかがでしたか?

河合:取組に対して、否定的なことをおっしゃる先生も中にはいました。先生方の個人的な感情や受け止めは自由ですが、教師として生徒達のために協力をお願いしますと伝え続けました。
全校で取り組むことに意義があり、取組を通してまずは教師の理解を深めることが何よりも必要だと考えていたからです。

後藤:一番苦労したことは何でしたか?

河合:苦労したという感覚はあまりありません。
ただ、前例がなかったので、教材探しや講師探し、校内での理解促進など、一つ一つを手探りで進めていきました。
生徒のために必要だと思っていたので、「大変だった」というより、「どうすれば実現できるか」をずっと考え続けていた記憶があります。また、LGBTQ+、性的少数者への理解を深めると、そうではない人との隔たりができてしまう気がして、「誰もが多様な性の一員」であるというSOGI(ソジ)の考え方を大切にして、講演者の方々とも相談しながら進めています。

後藤:逆に「やってよかった」と感じた瞬間は?

河合:講演会の振り返り用紙で、生徒達の率直な感想を読むときです。理解が深まり、偏見が軽減され、性の多様性に対して自分の考えをもてていることが本当に嬉しいです。

子どもたちは変わったのか?

後藤:レインボープロジェクトを始める前と後で、生徒たちに変化はありましたか?

河合:もちろんあります。
LGBTQ+について自然に受け入れている生徒が増えたと感じますし、自分も当事者であると何かしらの形で表出できる生徒も増えています。性に限らずお互いの個性を尊重できる生徒が増えているとも思います。

性自認に違和感がある人は約10人に1人と言われています。決して少ない数ではありません。
自分の近くにいるかもしれないと自覚できていれば、言動に気を付けることができますよね。普段の何気ない言葉や振る舞いに、当事者生徒は悩んだり深く傷ついたりしますので。

後藤:特に印象に残っている生徒とのエピソードはありますか?

河合:男子として生活したいと願う身体が女性の生徒がいました。
男性として「普通に」生活するために、入学時に私から学年全員の前でカミングアウトすることを依頼され、実際に入学してはじめての学年集会で私が伝えました。
そこから、1つ1つのことを担任や管理職と相談しながら、彼の願いが1つでも多く叶えられるように努力しました。
本人は葛藤も多くあっただろうし、100%とはいかなかったかもしれませんが、充実した中学校生活を送ってくれたと思います。

彼の進路先の高校にも、彼の願いや実際に対応してきたことを書類にまとめて送り、託しました。
彼のお母さんから、中学校と同じように生活できることになったと泣きながら電話がかかってきた時は、本当によかったと安堵しました。

後藤:子どもたちは大人が思う以上に多様性を受け入れる力を持っていると感じますか?

河合:それは本当にそう思います。
子どもの心はやわらかいので、変容も大きいです。本当に変わるべき、理解を深めるべきなのは大人だと自戒を込めていつも思います。
だからこそ、幼保小中で連携・接続して理解を深めることができるようにしたいと願っています。

後藤:先生自身が子どもたちから学ばされたことはありますか?

河合:たくさんあります。子どもたちは大人が思う以上に本質を見ています。
私自身、「こうあるべき」という思い込みに気付かされることもありますし、生徒の姿や言葉から新しい視点をもらうこともあります。
教育は教える仕事だと思われがちですが、私は子どもたちから学ばせてもらっていることの方が多いと感じています。
子どもたちの姿から、いつも課題をもらっていますし、もっとこうしていきたいというモチベーションも、パワーももらっています。

「つながり」を大切にする教育

後藤:河合先生は私との会話の中で「つながり(ご縁)」を大切に教育活動を進めているとよく言われます。
先生が考える「つながり」とは何ですか?

河合:私にとって「つながり」とは、人と人の間に橋を架けることです。
人は一人では生きていけません。
家族、友人、地域、学校、仕事など、さまざまな人との関わりの中で成長していきます。教師として働く中で、子どもたちが誰かとの出会いによって大きく変わる姿を何度も見てきました。逆に、つながりが途切れてしまうことで苦しむ姿も見てきました。
だから私は、人と人、人と地域、人と学びをつなぐことを大切にしています。目の前の教育活動も、その先にあるまちづくりへの思いも、すべて「架け橋」でありたいという願いから始まっています。

後藤:今の子どもたちに最も必要な力は何だと思いますか?

河合:変化の大きい時代だからこそ、「誰かとつながる力」だと思います。
知識は検索すれば得られる時代ですが、人との信頼関係は簡単には築けません。困った時に助けを求められること、自分と違う考えを受け入れられること、誰かのために動けること。そうした力が人生を支えてくれると思います。
私は学校で学ぶ知識だけでなく、人との関わりの中で育つ力を大切にしたいと考えています。

後藤:勉強より大切なことはありますか?

河合:勉強ももちろん大切です。でも、その学びを何のために使うのかを考えることは、もっと大切だと思います。
私は生徒たちに、「テストのためだけに学ぶのではなく、自分の未来のため、そして誰かの役に立つために学んでほしい」と伝えています。知識や技能は人生を豊かにする道具です。だからこそ、人を大切にする心や、自分らしく生きようとする意思と結び付いたときに、本当の意味で価値を持つのではないでしょうか。

「半田市の未来」

後藤:子どもたちに将来どんな大人になってほしいですか?

河合:「見えないもの」を大切に、どんな出会いや経験も大切にして、これが自分の人生だと思える何かを見つけて、自分も周りに居る人も幸せになる生き方をしてほしいです。

後藤:もし10年後の教え子たちへメッセージを送るとしたら?

河合:元気に頑張っていますか。あなたはどこにも代わりがいない、たった一人の大切な人。
そんな大切なあなたたちが社会に出て活躍し、大切な人とともに生きていてくれたら嬉しいです。
私の本当の目標は「レインボープロジェクトをしなくてもいい、誰もが自分らしく生きられる未来」が来ることです。半田中学校で性の多様性について理解を深めたみなさんが社会の真ん中に立つ時、きっとその未来に近付いていけると信じています。
私はあなたたちに願いと実現したい未来を託しました。頼みましたよ!

後藤:教育って未来を変えられると思いますか?

河合:変えられる!と信じています。まさに先ほどお伝えした通りです。教育には、子どもの豊かな未来を拓く力と責任があります。
我が町半田で、町を愛し、自分のよさに気付いていけるような教育活動を今後も模索していきます。


話せば話すほど、河合先生の教育への情熱に驚かされる。生徒のために時間を惜しみなく使う河合先生の教育への姿勢は他の業種の方々でも学ぶべきだと感じます。今後も河合先生の考える「真の教育」に私も微力ながら向き合わせていただきます。